弁護士と銀行員が自腹6万ドルで理髪店を買収、理美容院管理ソフトを検証
弁護士のSonge LaRonと銀行員のDave Salvantは経験ゼロで作った理容予約アプリが誰にも使われず、自腹2万ドルでマンハッタンの理容店を買収し1年間自ら経営。そこから本当のプロダクト「理美容院管理ソフトSquire」を見つけた。
プロセス
2015年、Songe LaRonはイェール大学ロースクール出身の企業弁護士、Dave SalvantはJPモルガンとAXAでプライベートバンカーを務めていた。親友同士だったが、二人ともテック業界やスタートアップの経験はゼロだった。
きっかけはLaRonの幼少期の記憶だった。6、7歳の頃から父親と理容店に通っていた彼は、20年後、ソフトウェアが生活のあらゆる場面に浸透する中、散髪だけが現金払いと長い待ち時間という原始的な状態のままだと気づいた。二人は「理容師版Uber」——顧客と理容師をマッチングする予約アプリを作ることにした。
問題はすぐに表面化した。理容店にアプリを使ってもらえなかったのだ。それでも需要を検証するため、二人は原始的だが効果的な方法を取った。理容椅子を車に積んでコワーキングスペースに運び、理容師を顧客のもとへ届けたのだ。
それでも足りなかった。ダウンロード数は少なく、使用率はさらに低く、店主たちは「これは店の役に立たない」と不満を漏らした。
2016年、二人はさらに大胆な決断をする。二人合わせた貯金6万ドルのうち2万ドルを使い、マンハッタンのチェルシー・マーケットにある経営不振の理容店の賃貸契約を買い取った。理容師免許がないため自分たちで散髪はできなかったが、受付、在庫管理、顧客対応、日常運営——できることはすべて、丸1年間続けた。
この1年間の「潜入経営」で、本当の問題が見えてきた。店主たちが必要としていたのは予約機能ではなく——ほとんどの店はすでに予約でいっぱいだった——総合的な管理ソフトウェアだったのだ。レジ、在庫、スタッフのシフト管理、顧客維持——これらは今も紙とペン、旧式のレジで運用されていた。
同年、この新しい方向性を携えてYコンビネーター2016年夏季バッチに参加。プロダクトは予約アプリから完全に方向転換し、「理容店版QuickBooks」——予約、決済、ロイヤルティマーケティングを統合したシステムへ。名前もSquireに変えた。
初期の成長は着実だった。2016年初頭、週商がようやく5000ドルを超え、週次46%の成長を続けていた。チェルシー・マーケット店の常連客——元Facebook副社長のBlake Chandlee——がこれに目を留め、後に初期投資家の一人となった。
その後3年間、Squireは着実に成長した。2018年には400%成長、米国・カナダ・英国の28都市に展開、プラットフォーム累計取引額は1億ドルを突破——これらすべてが、機関投資家からの資金調達を一切受けずに達成されたものだった。
「これはマラソンだ。急いでできるものじゃない」——Songe LaRon
2020年になってようやく、Squireは初の本格的な機関投資ラウンドを完了した(Trinity Ventures主導の800万ドルのシリーズA)。その後3400万ドルのシリーズBが続いた。以降、資金調達は加速し、累計調達額は1億4000万ドル超、2021年には評価額7億5000万ドルに到達、3000店舗以上の理美容院にサービスを提供し、決済処理総額は10億ドルを突破した。しかし本当に学ぶべきは、自分たちのお金で実際に理容店を1年間経営した、あの期間だ——現金と引き換えに、顧客の課題への本物の理解を手に入れたのだから。
シンキング
洞察1:需要を検証する最速の方法はアンケートではなく、自分で経営してみることだ
LaRonとSalvantは顧客アンケートを送る代わりに、自腹で理容店を買収し、1年間フロントに立った。これは「理容師100人にインタビューしました」よりもずっとリアルだ。彼らが体験したのは、店主が日々直面する在庫・シフト・レジの問題そのものであり、インタビューで聞いた「店主が必要だと思っているもの」ではなかった。
洞察2:最初の仮説が間違いだと分かったら、ゼロに戻す勇気を持て
「理容師版Uber」という最初のアイデアはアプリとして形になったが、誰も使わなかった。本当の転機は、その方向性に固執し続けることではなく、仮説の誤りを認め、埋没費用を切り捨て、1年かけて実店舗に潜入して本当の問題を探すことだった。スタートアップで最も高くつくのは使ったお金ではなく、方向性の誤りを認めず燃やし続ける時間だ。
洞察3:プロダクトの価値は、答えではなく行動で判断せよ
店主に「予約機能は必要ですか」と聞けば、大抵は礼儀正しく「はい」と答えるだろう。しかし実際に経営してみると、ほとんどの店はすでに予約でいっぱいで、予約機能などまったく必要ないことが分かった。**この洞察はレジの向こう側に立って初めて見えてくる。**顧客が口で言う要望と、実際の行動・リソース配分は、しばしば別物だ。
洞察4:無期限に資金を燃やすのではなく、自分が許容できる「実験予算」を設定せよ
二人合わせて6万ドルの貯金のうち、3分の1(2万ドル)をこの「潜入経営」実験に投じた。これはVCも住宅担保も必要ない、普通の人でも背負えるリスクだ。貯金の一部を「検証予算」として切り分け、実験を回し、結果に語らせる。
アクション
ステップ1:コードを書く前に、サービス対象の業界に「潜入」せよ
ある業界向けのプロダクトを作りたいなら、まずその業界で実際に時間を過ごす方法を見つけよう——その分野の小さな実店舗を買うか借りるか、数ヶ月間現場の仕事に就くか、従事者の1日に密着するか。観察すべきは「彼らが何が必要だと言うか」ではなく、「彼らが実際に何のツールを使い、どこで詰まっているか」だ。
ステップ2:何かを作る前に、原始的で泥臭い方法で需要を検証せよ
理容椅子を運んだように、最も泥臭い方法(人力、電話、スプレッドシート)でサービスの実物を回し、本当に人が来て払うかを確認しよう。ソフトウェアは後からいつでも作れるが、需要のリアリティは推測できない。
ステップ3:ターゲット顧客が使っている手作業の回避策をすべて記録せよ——それがプロダクトが置き換えるべきものだ
事業に潜入している間、目にした紙とペンの帳簿、口頭でのシフト管理、現金のみの決済をすべて記録しよう。これらの手作業こそがソフトウェアが攻略すべき対象であり、多くの場合、最初に想定していた機能ではない。
ステップ4:検証フェーズに明確な予算と期限を設定せよ
失っても構わない金額(例えば貯金の3分の1)を切り分け、明確な検証期間(例えば1年)を設定しよう。期限が来たら、続行・方向転換・撤退のいずれかを必ず決断すること。「明日には好転するかも」で無期限に引き延ばしてはいけない。
ステップ5:本当のビジネスモデルを検証してから、外部資金を探せ
いきなりVCに頼ったり、思いつきのために仕事を辞めたりしてはいけない。まず自分のお金で最小限のビジネスモデルを実証し、実際の有料顧客とデータを獲得しよう。それができて初めて、自己資金経営を続けるにせよ資金調達をするにせよ、交渉の立場がまったく変わる。
こんな人には向かない:1年間、目に見える成果が出ないかもしれないという機会費用に耐えられない人。サービス対象の業界に免許・資格の壁があり、現場に「潜入」すること自体が不可能な人(医療や法律のような規制の厳しい分野は別の検証方法が必要)。この種の実験的投資に回せる貯金がまったくない人。